ある晴れた日曜日、娘たちは連れだって村外れの野原に散歩にでかけました。そこにはうららかな陽の光に誘われて、三々五々人々がやって来ていました。どこからか笛の音さえ聞こえてきました。どうやら素人楽士がいるようです。息の合った2人の笛吹きが楽しげな曲の演奏を始めますと、誰言うでもなく、あちこちから娘たちが集まり、曲に合わせて踊り出しました。一同は演奏や踊りに興じて、今日が安息日だなんで、全く忘れてしまうほどの楽しさです。最高潮に達すると、突然稲光がして、雷鳴が轟きました。逃げるまもなく、全員が石になってしまいました。安息日を無視した天罰がくだったのです。
別の話では、踊りは土曜日に催されたのですが、娘たちは夜まで踊り続けました。笛吹きたちは夜中の12時に教会の鐘の音が響き始めると、ふと我に返り、スワッとばかりに恐れをなしてその場を逃げ出しました。ところが丘の斜面を登り切って村に入らないうちに、鐘の音が鳴り止んだのです。2人は踊りの輪から300mほど離れた所でやはり石になってしまいました。
**********************************************************************************
所在地: コーンウォール地方ランズエンド、セント・バーリャン村はずれ (ペンザンスの南西6km余り)
建造年代: 新石器時代後期 (およそ紀元前3500年~3000年頃)
構造: 輪のサイズ: 直径24m
輪の巨石数: もとは約19基の花崗岩。高さ1.2mほど (最高1.4m)。各石3~4m間隔。
輪の外、南側にさらに1基あり。
笛吹き人: 輪から北東に300m。2基の巨石。高さ各3m。
小さめの石が多いコーンウォール地方で恐らく最大の大きさ。
附記: メリーメイドンズ・サークルは、コーンウォール語の別名"Dans Maen”(ダンスミエン=Stone Dance)
を持つ。サークルの巨石は、上部や内側がスムーズに形が整えられている。
なお1860年代に、サークルの欠落していた部分に石を補充して修復された形跡がある。
その修復との関連は不明だが、そこから200mの所、別のサークルに7基の巨石が残っていたが、19世紀末にはその輪は消滅したとの記録がある。(1769年及び1872年、ボーレーズBorlase記)
類似の伝説を持つストーン・サークル:類似の伝説を持つサークルは極めて多数。数例を挙げる。
Stanton Drew* (Somerset)
The Hurlers* (Bodmin Moor, Cornwall)
Tregeseal East stone circle (Lands End, Cornwall) 別名 Dancing Stones
Boskednan stone circle (Lands End, Cornwall) 別名 Nine Maidens / Nine Stones of Boskednan
Nine Stones (Belstone, Dartmoor, Devon) 別名Nine Maidens / Seventeen Brothers
*********************************************************************************
<参考資料>
A Guide to the Stone Circles of Britain, Ireland and Brittany, Aubrey Burl, Yale University Press, 1995, London.
Mysterious Britain: Fact and Folklore, Homer Sykes, Weidenfeld and Nicolson, 1993.
“The Merry Maidens”, (https://en.wikipedia.org./wiki/), Retrieved April
6, 2020
*********************************************************************************
<余録> ナイン(9)の名前を持つストーン・サークルが多い理由
Nine Stones や Nine Maidens などストーン・サークルの名称には9の数字が好んで使われている。それも2ヶ所を除いて、実際には各所に9個以上の巨石があったはずなのに・・・。しかもその名は女性を思わせ、名には表現されていなくても踊る女性の伝説を含んでいるのが大半だ。イングランドに8ヶ所あり、スコットランドを含めると奇妙なことに9ヶ所になる。
Nine Maidens Wendron, Cornwall
Nine Maidens Boskednan, Cornwall
Nine Maidens Belstone, Devon
Nine Ladies Birchover, Derbyshire
Nine Stones Altarnun, Cornwall ---9個の石が現存
Nine Stones Winterbourne Abbas, Dorset
Nine Stone Close Harthill Moor, Derbyshire
(Nine Stones) Ilderton Threestone Burn, Northumberland
Ninestane Rigg Roxburghshire (Scotland) ---9個の石が現存
ヘレニズム文化を伝統に持つヨーロッパでは、踊りや音楽など
の芸術には、それらを司る古典の女神ミューズ(またはムーサ)
が深く関わると考えられてきた。古代ギリシャ時代初期には芸術
は大まかに3区分であったが、古典期からローマ時代になると、
各ミューズが司る専門分野がさらに3つずつに細分され、合計
9区分になった。因みに9柱のミューズを主宰するのは、芸術の
神アポロンとされる。
ルース・ゴードン(Ruth St Leger Gordon) に依ると、
ストーン・サークルにナイン(9)の数字が多いのは、 『パルナッソス山にあるアポローンとムーサたち』
安息日の戒律を破って踊りを踊った女性達が、古典の9柱 Samuel Woodford 作 1804年
の女神と結びついた結果のようだ。石になったことと古典 (https://ja.wikipedia.org/wiki/ムーサ#/media)
神話を結びつける要因はなく、しかも踊りを踊るのは女性
ばかりとは限らないのに・・・。
踊りを踊って石になった話の本命は、コーンウォール地方のメリーメイドンズ。非常に分かりやすい筋書きだったからに違いない。魔女狩りや異端追放が厳しかった時代(15世紀~17世紀)に、非識字の庶民にキリスト教の戒律を理解させるには、恐怖心を与える類いの伝説が有効であったのはうなずける。
**********************************************************************************
<参考資料>
“Legendary Dartmoor: Nine Maidens”, (https://www.legendarydartmoor.co.jk/nine_maidens.htm),
Retrieved 7 April 2020
「ムーサ」,(https://ja.wikipedia.org/wiki/), Retrieved 7 April 2020.