<流浪の歴史その6>
最終章、スコットランドへ帰郷
事件のほぼ1年後の1952年2月、国王ジョージ6世が崩御され、長女のエリザベスが女王として王位継承した。
1年4ヶ月の準備期間をもって、1953年6月2日、エリザベス2世の戴冠式が挙行された。もちろん、「石」を内蔵
した戴冠椅子に坐してのこと。ロンドンに帰還後は、「石」は鉄の鎖でしっかりと留め置かれ、さらに鉄作に囲まれた一角に厳重に保護されていた。
「石」を盗もうとする未遂事件は、1967にも起こった。そこで、将来の真贋の論争を避けるため、「認識符」を内蔵させる手段を思いついた。IDを示す手書きの紙の半片が石に埋められ、表面を蝋で塞ぎ、隠された。もう一方の半片は、寺院に保管された。最早その必要がないと思われた1997年(スコットランドに返還された年)に除去された。
1996年7月3日、ジョン・メイジャー首相(保守党)による重大発表があり、「女王の同意を得て、『スクーンの
石』は、スコットランドに移管する」ことになった。余りにも突然の決定だったようで、寺院関係者、議会、そして、スコットランド側でも当惑があった。恐らく、スコットランド愛国者らは、「石」の返却よりも、実質的な
自治権獲得を望んでいたもようで、それには、1998年労働党内閣のトニー・ブレア首相(スコットランド出身)になるまで、待たねばならなかった。スクーン町にはもはや寺院は存在していなかったので、「石」の移管場所として、エジンバラ城が選ばれた。将来、新君主が戴冠する際には、戴冠式のためにのみロンドンに返送することとの条件付で。
1996年11月14日、「スクーンの石」はウェストミンスターより搬出され、スコットランドの守護聖人セント・
アンドリューの縁日11月30日にエジンバラ城で正式に受領された。当日は、この方を置いて他にいないとのことでアンドリュー王子が女王の名代として式に立ち会った。気配りの演出だ。流浪の旅もやっと終焉を迎えた。現在、エジンバラ城の「王冠室」に展示され一般公開されている。
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