セントコロンブ・メイジャーのパブサイン

13B ハーリング

<寄り道コラム> ハーリングの行事

 英国南西部のコーンウオール地方には、ハーリング(hurling)と呼ばれるゲームの伝統が広くあった。今では、ただ一つの町でその伝統が守られている。その町は、「ハーラーズ・ストーンサークル」の南約3.5kmのセント・コロンブ・メイジャ-(St. Columb Major)である。

 当地のハーリングは極めて特有で、アイルランドや北イングランドの類似のゲームとは異なる。 大雑把に言えば、ボールをゴールに素手で運ぶラグビーもどきのゲーム。昔は、村や町同士の対抗競技であったが、現在は町中チームと在チームで競う。大らかさが特徴で、きちんとしたルールは無い。コートは無く村全体がプレイエリア。参加人数制限も無く、2チームがアンバランスでもOK。勿論、リーダーや審判もいない。ゴールは各チームに2つづつある。一つは町外れの場所で、家畜の水桶とか石碑など。もう一つは、隣町との境界線。指定された自分のゴールに先にボールを運んだチームの勝ち。

 ボールは野球のボールくらい(570g以内)で、手作り。リンゴの木で芯を作り、純銀の表皮で包むので極めて 高価。1000ポンド前後。その昔コーンウオール地方は鉱山で栄えた所なので、銀も産出した。銀球は恐らく太陽を象徴し、太陽信仰の異教が行事の起源であったかもしれないし、あるいは太陽が勢いを増す春の訪れを祝い、再生や繁栄を祈念しての中世からの行事だったかもしれない。シルバーボール・ハーリングが記録に表れるのは16世紀(1584年 John Norden)なので起源は定かでないが、2月~3月に開催されることが、示唆的だ。開催日は「パンケーキの日(火曜日) Shrove Tuesday」またはその後の土曜日。(パンケーキの日の翌日は「灰の水曜日」と呼ばれ、復活祭の前日までの46日間は断食期なので、パンケーキの日にしっかりと食事をするのがキリスト教徒の習慣。)

 ゲームはマーケット広場からスタートする。午後4時集合、4:30スタート。時間は無制限。選手と見物人で街路はごった返す。ユニフォームやゼッケンなども無いので、選手の顔だけが頼りで、パスをする。投げることや、タックルやスクラムありのラフなプレーもあるので、商店は店頭にボードを張ったりと防御を怠れない。開始から1時間程度は余興の時間。わざと選手以外の人、子供や女性にボールを渡すとプレイは中断。時には家に入り込んで銀球を病人に触らせて快復祈願をしたりもする。その後は真剣に全力で走ったりパスをしてゴールを目指す。アクシデントが無い限り、6:00~6:30 には通常終了し、勝者が決まる。ゴールを決めた選手がチャンピオン。チャンピオンの名誉は翌年まで一年間維持できる。夕刻には、町を挙げての祝宴が待っている。勝ったチームは、チャンピオンを先頭に銀球を携えてすべてのパブ巡りをする。

 なお、近隣のセント・アイヴィス(St. Ives) 町にもハーリング行事はあるが、プレイヤーは子供に限られている。2月始めの聖アイヴィス縁日の翌月曜日に開催される。また、ボドミン町でも、5年に一度4月~5月に境界視察ウオーキング行事(Beating the bounds) の後に、ハーリングが開かれる。市長が池に投げ入れた銀球を拾い出して、町の決められた区間を行くだけ。

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<参考文献>
"The Silver Ball: The Story of Hurling at St. Columb", I. Rabey, Edyvean Printers (1991), St. Columb, Cornwall.
“Cornish hurling”, (https://en.wikipedia.org/wiki/Cornish_hurling), Retrieved April 2, 2020.

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