35ブルータス・ストーン

道端に埋められたブルータスストーン             トットネス町の遠景

落人伝説:英国建国の祖、ブルータス

 ブルータスはアエネーイスの曾孫でありました。アエネーイスはトロイがギリシャに滅ぼされた折、落人として
一族郎党を従えて、流浪の果てに現在のイタリアの地にたどり着き、後世のローマ建国の礎を造ったとの伝説の勇将であります。そのブルータスは、都市国家ローマの支配者の子として生まれたのですが、何の因果か応報か、
アエネーイスの轍を踏む運命にありました。
 ブルータスが知勇に秀でたプリンスに成長したある日のこと、狩猟中に、自らの手で射た矢が父国王に誤って当り、図らずも射殺してしまったのでありました。自らの凶運を嘆いてみたものの、掟により、祖国ローマを永久追放される憂き目にあうこととなりました。
 こうしてブルータスの長い長い流転の旅が始まりました。たまたま隣国ギリシャで出会った同郷のトロイ人を率いて、海のかなたに希望の地を求め、船出したのであります。数々の冒険を重ねた後、幸いにも山紫水明の恵み豊かな島に到着しました。この地はその頃、ローマ人によりアルビヨンと呼ばれていた島のようでした。かつては
巨人族の国でしたが、ブルータス一行が着いた折、丹念な偵察の結果、生き残りの巨人がまばらに住んでいるだけのほぼ無人島と化していることが判明しました。そこでブルータスは、征服の証として、自らの名を冠してこの島をブリテンと改名することとしました。西南海岸のトッとネスに上陸後、ブルータスは各地を制圧しつつ、ついにテムズ河畔にまで達しました。そこをニュ-トロイと名付け、ロンドンの開祖となったと伝えられております。
(モンマスのジェフリー著『英国国王列伝』より)
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附記: この伝説はいわゆる「貴種流離譚」の典型である。ジェフリー・オブ・モンマスが12世紀に執筆した英国
建国神話(ストーンヘンジ」伝説その1「巨人の輪」*参照)によると、トットネスは、建国者ブルータスが一族を
引き連れ、長い流浪の果てに、約束の地ブリテン島に辿りついた際に上陸した地点である、ということになっている。その英国上陸に際して、ブルータスがこの大石の上にお立ち台よろしく駆け上がり、声高に上陸を宣言したといわれる伝説の岩である。さらにまた、後日、当地征服を神に感謝して、祝宴を張った地点でもあるそうだ。現在では鄙びた田舎町だ。
 そんな由緒ある伝説の岩でありながら、みすぼらしい今の姿はどうしたわけだろう。商店の壁の下方に小さな看板があり、↓で示されている。歩道の中に、長さ50㎝程度の花崗岩の切株のようなものが埋められていて、道行く人に踏みつけられている始末。大石が道端に転がっていては、交通の邪魔とばかりに片づけられてしまったのだろうか。
 真相はこういうことらしい。中世には、この大石はブルーターズ・ストーン (Bruiter’s Stone) と呼ばれていた。ブルート (bruit) とはニュースの意味で、役人が町民にお触れをする際に、この石の上に乗り、大声でわめいたことから、その石は「お触れ人の石」と呼び慣らされた。正にプロ野球のヒーローインタヴューのお立ち台である。建国神話が広まると、発音が崩れてブルーターズ・ストーンからブルータス・ストーンへと変化し、伝説の内容と符合させられることとなったというわけだ。
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余録: トットネスはエクセターとプリマスのほぼ中間に位置していて、どちらへも25マイルの距離にある。ダート川河口のダートマスから約8マイルほど内陸へ遡ったところで、海洋航行の中型船が川を上って来られる最終地点。昔は、水利が町に繁栄をもたらたしていた。20世紀に鉄道が敷かれると、発展から取り残されてしまった。
 トットネスは川沿いの斜面に開けている。湿地の川谷を避けて、平坦地の少ない山の手に、7~8世紀にサクソン人が初めてこの地を開拓して居留し始めた。地名の由来は、サクソン語で「見晴の利く地」の意味だが、丘頂の城跡からの眺めは、ちょっとしたもの。眼下の家並みの向こうに蛇行して流れるダート川、背後には起伏の美しい緑のダート・ムーアを望む。ここの城は、サクソン人を制圧したノルマン人が勢力を誇示するために12世紀に築き、後に石造りに改修したもの。
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<参考資料>

"The History of the Kings of Britain", Jeffery of Monmouth,Penguin Classics (1988 Reprinted), Penguin Books, London.
"Albion: A Guide to Legendary Britain", J. Westwood, Granada Publishing Ltd.(1985), London.

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