31B 流浪①アイルランドでの伝説

          現在のタラの丘頂                                     タラの丘での催し(麓の看板より)

<流浪の歴史その1:アイルランドでの伝説>

アイルランドの建国伝説

 古代ギリシャのとある都市国家のプリンスだったガイセラス (Gaythelus ゲール人の始祖の意。ゲール人とは
アイルランドやスコットランドのケルト系の種族)は、トロイ戦争後、焦土と化したトロイの地を逃れて、イベリア半島(現在のスペイン)にやって来たが、その際に大事な「石」を携えて来たと謂れている。・・・(ここで、伝説の糸はフッツリ切れて断絶があり、やや時が進む)・・・その後、エジプトのファラオの娘スコタ(Scota) と結婚したガイセラスは、石を携えてアイルランドへ移住し、スコット人(=ゲール人と同義。スコタが原意か)の始祖となった。その「大事な石」は、代々のアイルランド王即位に際して、その上で王としての誓いを立てるのに使われるようになった。

アイルランドの即位式伝説

 古来、ヨーロッパでは、特別の石には超自然のパワーが宿ると信じられてきた。特別な石は、王権の関わりが深いのだ。スカンジナビアでも、北欧神話から『主神オーディーンの石台』と称される大石があり、国王の即位式と深い関係があったとか、なかったとか・・・。
 アイルランド島東部のタラの丘は、今でもパワースポットとして旅行者の巡礼地のように扱われているが、かつてはこの丘頂に「運命の石」が立っていて、即位の儀式が行われた。そこで、新王候補の勇者がこの石に触れた際に、石が唸り声を上げたり、震えたりすれば、その者はハイ・キング(High King) として認められた。時代が進むと、石の儀式は円やかに修正されて、新王は単に石の上に立ち、高らかに即位を宣言したらしい。
 とまれ、アイルランド統治における、「石」の存在の大きさを伝える史実エピソードがある。エリザベス1世治世の末期17世紀初頭のこと、英領アイルランドは反逆を口実にイギリス軍の侵攻を受けた。9年戦争 (Nine Years’ War) を戦ったが、アイルランドの敗北に終わった。その折、イギリス軍は北東部アルスター地方のオニール家に保管されていた「即位石」(Inauguration Stone) に目をつけ、アイルランドに大いなる屈辱を与える象徴的行為として、破壊するのを忘れなかった。

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