(1)トロールの輪踊り(ハルタダンス Haltadans)
シェトランドのトロール達は、顔は醜くても愛嬌があり、ずんぐりむっくりの小人なのです。踊りや音楽が
三度の飯よりも好きなひょうきん者です。夜な夜な住処から抜け出して、仲間で踊り明かしたものでした。
ある時、あまりにも踊りが楽しく羽目をはずして、太陽が昇るのも気づかず踊り続けていたので、全員石に
なってしまいました。もちろん、中央でバイオリンを弾いていたトロールとその妻のトロールも、仲良く石に
なりましたとさ。
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所在地: スコットランド、シェトランド諸島、フェトラー島 (Fetler)。
建造年代: 新石器時代
輪の構造: 輪の直径11.3m。さらに内側に直径7.9mの土塁あり(南西側に1.5mの開口部)。
土塁の中央に2基の石柱(埋葬跡か)。
石の数は、元38個。現22個。丈は低く、地中に埋まっている。
附記: 先史時代からシェトランド諸島の先住民はピクト人だったが、大西洋と北海の海路を繋ぐ位置のため、
8~9世紀にヴァイキングに征服された。15世紀からスコットランドの支配下に入るが、住民は文化的には
北欧の伝統を継続した。この話に出てくるトロールは正に北欧文化そのものだが、本来の大きさや恐ろしさは
無い。むしろ英国の妖精の夜行性の特徴さえ備えている。この話は、トロールは朝日を浴びると石に化けるという
北欧の俗信が起源になっているようだ。罰で石化したとの道徳的筋書きは、中世にイングランドで流行した言い
伝えが転嫁されたもの。
(2)トロールの丘 (トーウィー・ノーウィー Towie Knowe)
シェトランドのトロールは本当に音曲が好きな小人でした。小丘に穴を掘って住んでいましたが、ある日、
近くを人間のバイオリン弾きが通りかかりました。言葉巧みに丘の住処に誘い入れて、賑やかに演奏を聴かせて
もらいました。
楽士は、暖かで居心地の良い部屋、美味しいご馳走などのもてなしにすっかり気を許し、1日と1時間を過ごし、
些少のコインをお礼に受け取ると帰って行きました。ところが人間社会に戻ってみると、1年と1日も過ごしていた
ことが分かりました。とは言え、楽士は不満どころか大いにハッピーだったのです。その理由は、ポケットに入れ
たトロールにもらったコインが、使う度毎にまた補充されていたからです。汲めど尽きぬ宝でした。
ところがある晩、酔った勢いで口が軽くなり、その大事な秘密をペラっと他人に話してしまいました。途端に、
ポケットからコインは消えて、空になってしまったとのことです。
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所在地: スコットランド、シェトランド諸島、ノースマヴィーン島(Northmavine)。
丘の構造: 長形羨道墳の墳丘。シェトランド通常の石積みのみの埋葬塚でなく、土盛りの丸丘。
その他詳細不明。
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<参考資料>
Westwood, J. (1985), Albion: A Guide to Legendary Britain, Grannada Publishing
Ltd., London.
“Haltadans, Jennifer Bailey”, (britishfloklore.com/haltadans), Retrieved
April 8, 2020.