<寄り道コラム> ニワトコ(elder) の呪力・効能
ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805 – 1875) の童話集の中に、『ニワトコおばさん』という話が載っているので、馴染みもあろうかと思う。日本ではセイヨウニワトコ(スイカズラ科)という名で知られている。春に薄いクリーム色の花をつけ、臭気が強く、夏を代表する木。秋には赤い実を結ぶ。晩春に幹を切ると、赤みを帯びた樹液を出す。
『英米文学植物民俗誌』(加藤憲市著、冨山房)によると、次のような特徴がある。この木の発気には一種麻酔性があるので、昼寝には向かない(寝すぎてしまうから)。また、樹木は強くて硬い。枝は切ってもすぐ伸びるので、不死の象徴とされた。生垣用には、耐久性・繁殖力のせいで向いている。
俗信は数多い。キリストを裏切ったユダが縛り首になった木とされたり、キリストの十字架を作った木とも
されて、吉凶相背反する。ゲルマン神話では、妖精が根元に住んでいるとの伝承がある。また、魔女がこの木に
変身するとの迷信もある。従って、魔女信仰ともゆかりが深い。この木を伐採するのを嫌うのは、精霊の報復を
恐れるため。そのため、樹木を家具や造船には用いず、薪にもしない。枝を家に持って帰ると、悪魔がついてくるとの邪説もある。
花を乾燥させたハーブティーは、風邪や喉にも効能あり。実の汁は煮詰めて風邪や咳の薬とした。現在でも
エルダーフラワーエキスは瓶詰として薬局で販売されている。
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<参考文献>
『英米文学植物民俗誌』 加藤憲市著、 冨山房 昭和51年4月27日