21D 古典神話との関連

                                                  古代ギリシャ 黒壺絵「ミノタウロス」
                                                     (en.wikipedia.org/より)

ダイダロスとイカロスの迷宮脱出話(古典神話)の荒筋

 ギリシャの都市国家の盟主アテネがいまだ黎明期にあり、国力も微弱であった頃の
お話です。 地中海世界では、ミノア文明が最盛期にあり、クレタ島を本拠とする
航海術に長けた海洋民族が ミノス王を頂いて周辺諸国に睨みを利かせていました。  
ミノスにはミノタウロスという牛頭人 体の怪獣が迷宮にすんでいて、これへの供犠
として、アテネは7年毎に少年少女7名づつを提 供することを強いられていたのです。

 ある時、腹に据えかねたアテネの勇者テーセウスは、自ら志願して”派遣者“の
一人となり、 牛人ミノタウロス退治にクレタ島に乗り込みました。
若者テーセウスに恋してしまったクレタ 島の王女アリアドネーは、迷宮の設計
建築家で知恵者のダイダロス(巧みな工人の意)の助言を 得て、テーセウスは
牛人を難なく退治した後で、麻糸を手繰って見事に外に脱出に成功しました。
テーセウスはアリアドネーと捕虜の少年少女を連れ、無事アテネに凱旋。

  一方、ミノス王は、逃亡幇助のかどで、ダイダロスとその息子のイカロスを迷宮に幽閉してしまいました。
発明に長けたダイダロスは、囚われの身でありながら、王のための仕事を強いられる間、二対の翼を仕上げたのです。
羽の接着には蝋(一説にはニカワ)が使われているので、父親は息子イカロスに接着剤が融ける危険性を指摘し、熱や
太陽には近づかないよう厳重な注意を与えました。両翼を装着し、飛翔を始めます。
 再び自由を取り戻した父子は、空高く舞い上がりました。迷宮と暴君を遥か眼下に見下ろす高所まで来ると、喜び勇
んだ若者は、父の忠告をすっかり忘れて太陽に近づき過ぎてしまったのです。その結果、イカロスは海中に墜落して落命しました。父のダイダロスは、嘆きつつも飛翔を続けて、現在のシシリー島へ亡命したと伝えられています。

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 ヴェールンドとダイダロスの身の上には重なり合う部分があることが分かる。それは、両者とも製造技術手腕に秀でて
おり、邪王は匠の才を独り占めにしたいがために、飼い殺しのように幽閉しておいたことが飛翔話の発端となる。名工は
監禁から逃れて自由を取り戻すために、人工の翼を工夫考案し、自ら装着して空を飛び、囚われの境遇から解放された。
 余談だが、ダイダロスがシシリー島に逃れた結末には、含蓄がある。周知のようにシシリー島には活火山のエトナ山が存在する。火山の噴火は、エトナ山の中で、火神で鍛冶の神ヴァルカン (Vulcan はvolcanoの語源) が、鍛冶の仕事をしているためだとの伝説がある。

 いくつかの抹消的な点において、名鍛冶ヴェールンドのゲルマン伝説には、ギリシャ・ローマ古典神話の影が見える。次の3点は明らかだ。

               古典神話                   ゲルマン神話__________

名前と職能:      ローマの鍛冶の神ヴァルカン (Vulcan)     鍛冶の名匠ヴェールンド (Volundr)

脚の障害:       鍛冶の神は、故あって脚がやや不自由     匠は故意に腱を切られた

主人公の脱出方法:   ダイダロスは迷宮から翼を付けて脱出     ヴェールンドは、翼を付けて島から脱出


 ヴェールンドの伝説形成期がいつ頃だったかは判明しない。論理的には、その形成期に地中海文明の影響を受けたため、話の設定に類似点ができたと考えられる。一世紀には、ゲルマン諸民族はすでにヨーロッパ大陸の中部方面のドナウ川あたりまで南下してきており、ローマ帝国ともかなりの戦闘的、平和的な接触をしていたことが覗える。それから考えても、
先進の古典文化を後進のゲルマン人が相当吸収したことは、容易に理解できよう。両文化間には経済面での交易ばかりでなく、人的交流もかなりあったはず。ローマ帝国の軍隊が、外人傭兵のうちゲルマン人を多く抱えていたり、ゲルマン部族でローマ軍の支配下に下ったものもあったことなども心しておきたい。従って、時代が進むに連れて、細部や末端部分で文化的影響を受けても何の不思議もない。ただし、ヴェールンドの伝説の神髄については、すでに触れたように、紛れもなくゲルマン性テーマを堅持している。

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<参考資料>
「ギリシャ神話(下)」新潮文庫  呉茂一   新潮社   平成元年9月30日 19刷
”Minotaur", (https://commons.wikimedia.org/wiki/Main_Page), Retrieved 15 May 2020.

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