自然生成の奇岩 「チーズリング」
イギリスにキリスト教が伝導され始めたの頃のお話です。コーンウォールの広大なボドミン・ムーア荒野には幾つもの岩山があり、そこは長い間巨人族の住処でした。荒野には水のきれいな池や湖があり、巨人たちは何不自由なく暮らしていました。ところがキリスト教の伝道師たちがここまでやって来て、大事な水源である泉や井戸をお祓いして、巨人の領地を侵略し始めたのです。当然巨人達は怒りに震え、この一大事に望んで、腕に覚えのあるウサーに伝道師を追い払う使命を与えました。
ウサーはひ弱そうな伝道師チューと対峙しました。伝道師は、問題の決着をつけるために石投げ競争を提唱しましたので、ウサーは二つ返事で、これに応じることにしました。条件は一つ、ウサーが勝利すれば伝道師はこの地を引き上げるし、ウサーが負ければ巨人族はキリスト教に改宗するというものでした。
先攻のウサーは一抱えもある平たい岩石を力いっぱい投げて、遠方のストウズ丘のてっぺんに投げ上げました。チューはお祈りをすると、易々と別の大岩を投げてウサーの岩の上にピタリと重ねました。こうしてお供えのように重ね合うこと12回づつ。ウサーが13個目を投げると、残念! 丘から転げ落ちてしまいました。チューが拾い上げると天使が舞い降りてきて、それを重ね餅の頂上に丁寧に置きました。 ついに勝負あり! ウサーは素直に敗北を認め、巨人族は全員キリスト教に改宗したということです。
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場所と形状: コーンウォール地方、ボドミン・ムーアの南東に在るストウズ丘の尾根近く。ミニオンズ村から
北西に1マイルほど歩く。花崗岩でできたパンケーキを何枚も重ねたような自然生成ケルン。
最大のものがチーズリング、高さ9.6m、別名「ドルイドの腰掛け」。
さらに2基がならんで存在する。俗信では投げた岩石は12枚と伝えられているが、現実の平岩は7枚。上に行くほど大きく、5枚目が横に角を張り出しているので、異様さを醸し出している。
19世紀には間近に採石場があったので、ダイナマイト爆破の余波で危うく破壊されそうになった。保護運動が功を奏して、保護された。
因みに、ロンドンのタワー・ブリッジの建設にチーズリング採石場の花崗岩が使われている。
語源: 昔のチーズ絞り器 (“cheese wring” = cheese press)が平石を何枚か重ねて重石にしたので、それに似て
いるところからの命名といわれる。
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<参考文献>
“Cheesewring: Cornwall Information & Accommodation Guide”, (https://www.intocornwall.com/),
Retrieved 3 April 2020.