「巨人の犬小屋」又の名を「詩人の石」
「詩人の石」の別称がありますが、由来は定かではありません 勝手に想像するところ、この斜面は尾根に近く、眼下の眺めは最高なのです。平地の集落を一望できますし、天気がよければ、彼方にリヴァプール湾の海も見渡せます。麓から見上げると、あたかも詩人ががこの古墳に座って思索にふける姿に見えるのかもしれません。
さて、本題に入りましょう。人里離れたタリイファン(Tal y Fan)というウェールズの山中に巨人が住んでおりました。グレイハウンドの猟犬を飼っていて、毎日狩りに出かけていたそうです。その犬小屋は頑丈な石造りでした。内部の高さは1m以上もありましたから、相当大きな犬だったのでしょう。さすが巨人の愛犬です。
ある荒天の日、巨人はとてもお腹がすいていたので、羊を一匹食べたくなりました。丘の中腹にいる羊を愛犬に追って来させようとしましたが、ご承知のように、ウェールズの悪天候ときたら、犬でさえも尻込みをするほどひどいものです。犬もこんな日の外出はまっぴらです。そんなわけで、ご主人さまの命令と言えども聞くわけにはいかないと思ったのか、そそくさと犬小屋に隠れてしまいました。
それを見ると巨人は大いに怒り、腹いせに自分の長棒を取り上げると、犬小屋目がけて投げつけました。雨のせいで滑り易かったのでしょうか、手元が狂って犬小屋には当たらずに、近くの地面に突き刺さってしまいました。今だに背が高く尖鋭で細身の巨石が犬小屋から90mほどの所に斜めに突き刺さったままあります。
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所在地: ウェールズ、グウィネッズ(Gwynedd)、ローウェン(Rowen)の近郊の丘陵斜面で、
町から 2.4km ほど丘を登った所。
建造年代: 新石器時代 (およそ紀元前3500年~2000年)
構造: 長方形墳墓の巨石のみだが、土盛りの僅かな一部が残っている。
サイズ: 4個の板状の礎石が長方形の分厚い笠石(冠石)を支えている。
笠石は長さ 4m弱、幅 2.4m、厚さ 75cm。高さ 1.2m。
附記:一般に先史時代の巨石遺構にまつわる伝説としては、踊りを踊ったり遊びをしたりして、安息日を汚した人間たちが石になったり、巨人が悪事の罰として石化するキリスト教の訓話の筋書がみられる。
ここではその類いではなく、巨人を人間視して話を展開しているのは珍しい。人間と自然が一体化して考える精神風土は、ケルトの余韻を残すウェールズの土地柄だろうか。
当ドルメン(墳墓の巨石が露出している遺跡)は尾根近くの南東斜面に造られている。わざわざ斜面に建造した理由は不明。ここはスノードニア山系の北東端にあたり、眼下にはコンウィー(Conwy)の平地が見渡せる。この丘陵の尾根伝いには、先史時代遺跡が多数存在する。巨大立石、墳墓、ストーン・サークル、ケルン等々。
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<参考資料>
"Mysterious Britain",H.Sykes, Weidenfeld and Nicloson (1993),
London.
“Maen y Bardd, The Poet Stone,Neolithic Chambered Tomb”, (http://www.stone-circles.org.uk/stone/maenybardd.htm),
Retrieved April 14, 2020.